滑り込みセーフ

万事がギリギリな僕としては日常にいろいろな「滑り込みセーフポイント」を見つけているわけです。
たとえばうちの最寄り駅の小田急世田谷代田駅
基本的にうちより小田原側には行かない僕は、常に家から出た後は新宿行きの電車に乗るわけです。
しかし、うちから見て踏切の向こう側が新宿行きのホームなので、できるだけ踏切を渡ってしまいたい。手前側のホームから入構すると階段を使わないと新宿行きのホームへ行けない。

余談ですが、跨線橋とか歩道橋とか大っ嫌いです。
わざわざ階段を上って位置エネルギーを溜めても、すぐに下るので位置エネルギーは±0で残るのは疲労だけ。物理はよく分からないけれどなんか許せん。
丘の上の小学校とかなら良いんですよ。位置エネルギーを溜めるのは小学校に行くためだから。友達と会うためだから。机で寝るためだから。ブルマ姿の女子を見(ry


というわけで、アンチ跨線橋派の僕としては踏切を渡りたいわけです。
しかしファッキンな踏切は電車が来ると遮断機が下りて通れないことは周知の事実。
しかも複線化事業によって本数の増えた小田急線の踏切は開いたかと思うとすぐに閉まってしまう。
そこで僕は「踏切滑り込みセーフポイント」をうちに近い順にA,B,Cと作りました。


Aポイント…ここからBポイントまでの間に警報が鳴り始めた場合、走れば遮断棒をくぐりながらもなんとかわたれる。逆に言えばAポイント到達前に警報が鳴り始めた場合、諦める他無い。
Bポイント…ここからCポイントまでの間に警報が鳴り始めた場合、走れば遮断棒が降りはじめの時点で渡れる。恥ずかしくない。
Cポイント…ここまで来ればもういつ警報が鳴ろうとも余裕のよっちゃんで社長歩きをしながら踏切を渡れる。むしろ踏切の途中で立ち止まっても良いだろう。


くっだらねーと思う事なかれ。
このポイントを熟知していれば、例えば警報が鳴り始めたので慌てて走ってみたものの結局間に合わずちょっと未練たらしく遮断棒を揺すってみたりして周りの人から「クスッ」って笑われたりしないですむ訳です。
そしてこの踏切ポイントの位置は絶対的なものではなく、走るスピードによって遠くなったり近くなったりするわけです。
昨日までのAポイントは今日のA-B間の微妙なポイントになるかも知れないのです。


「今日はオレ、行けるかもしれない…」


そんな思いを胸に秘め、Aポイントの手前から己の限界をねじ伏せるかのように踏切に向かって走ったあの日…。
いつもは意地悪くオレを急かすように聞こえる警報機の音すら、今日はオレへのエールに聞こえる…。


「かーんかーん ガンバレ!ガンバレ! かーんかーん」


あの瞬間、オレと共に走った風もこう言っていた…。


「FUCK跨線橋!FUCK歩道橋!オマエの膝は2次元を駆け抜けるためにあるんだ…」


無我夢中で走って、気づけば踏切の彼方に立ちつくすオレ。
後ろを振り返ると、自分の限界に挑戦することを忘れ、遮断機が下りた、遮断機が下りた! たったそれだけの理由で歩みを止めた無気力な大人たち ー敗者といっていいー の灰色の瞳。


あの瞬間、オレはあるゴールテープを、形而上的な意味を廃し、ただそこにあることがそれを掴んだ人間にだけ分かるゴールテープを、確実に切っていた。


また一つ、オレは自分を克服したんだ。


そう、心のAポイントはいつだってもっと手前に引き寄せられる。
それが自分に勝つって言うことなのかも知れない。


今日もオレの飽くなき挑戦は続く…。